コーヒーには、いろいろな淹れ方があります。
その中で僕が選んだのは、いちばん世話のかかる淹れ方でした。サイフォンコーヒー。まるで理科の実験のように、ガラスの器具を組んで、マッチで火をつけて、お湯が上がってくるのをじっと待つ。正直、面倒くさい。でも、その面倒くささにロマンがあるんです。
僕にとってサイフォンは、ただのコーヒー器具ではありません。毎朝、今日の自分の調子を測るバロメーターです。
今日はその話を。なぜ僕が、わざわざこの遠回りな淹れ方を選んでいるのか。
効率で選んだら、たぶん選ばない
サイフォンとの出会いは、僕が大学1年生の頃。コーヒーに心酔し、気づいたら手にしていました。普通にポットでお湯を沸かして、ドリップで淹れる。でもそれじゃ面白くない。なんだかコーヒーに失礼な気がして。そう思ってしまったんですね、当時の僕は。笑
どうやったらおしゃれにコーヒーを淹れられるか、そればかり考えている大学生でした。
池袋のデパートで、それは「実験器具」だった
いろんなコーヒー器具店を回っていた中で、見つけたのが東京 池袋にあるデパートのキッチンコーナーでした。ガラス球のフラスコとロート。スタンドに乗っていて、下にはランプ。
「なんだこの美しい器具は・・・」
正直、最初はこれがコーヒーを淹れる器具だと分かりませんでした。でも調べてみたら、サイフォンコーヒー器具。当時の僕の頭の中でこう着していた「コーヒーの淹れ方どうする会議」には、ぶっとび過ぎた案で、この上ない最良案でした。
あらゆるネット記事には、「こだわるならネルドリップ」と書かれていました。でも、僕にはネルドリップがどうもピンとこなかった。
この実験器具で、アルコールランプの火で淹れる。その工程そのものに惹かれてしまったんです。コーヒーは自分で豆を挽いて淹れたい——その気持ちとも、相性は最高でした。
15年間、毎朝15分
なんだかんだ、18歳の頃から続けています。
年がバレてしまいますが、大学1年生の頃から今に至るまで約15年間。毎日、休まずに。途中でガラスを割ったり壊したりして、今の器具は三代目になりました。
サイフォンでコーヒーを一杯淹れるのに、だいたい15分。慣れた今でも、これくらいはかかります。
HARIO(ハリオ) テクニカ 3杯用 コーヒーサイフォン TCAR-3
お湯が上がってくる、ここからが本番
毎朝のルーティンはこんな感じです。まず器具を用意して、下のフラスコに水を注ぐ。アルコールランプにマッチで火をつける。冷蔵庫からネルフィルターを出してロートにセット。お湯が湧くのを待つあいだに豆を用意して、手で挽いて、フィルターをセットしたロートに入れる。ロートをフラスコに乗せたら儀式完了。
そしてフラスコ内のお湯が沸騰しはじめたら、いよいよ本番です。
上のロートをフラスコにセットすると、中の気圧が変わって、沸騰したお湯が上の抽出部にじわじわと上がってきます。ここで匂いを堪能。挽きたてのコーヒーの、いい匂い。旨みが外に逃げないように、層を作るイメージで、そっと粉とお湯を沈ませていく。そこから約1分半。匂いをかぎ続けます。
コーヒーの香りがたち、表面には虹色の泡、ロート内は粉・コーヒー・泡のきれいな三層。その瞬間にアルコールランプを止めます。あとは優しく撹拌。だんだんと、抽出されたコーヒーが下のガラスに落ちていきます。
うまくいくと、上のフィルターに、カルメ焼きみたいなドーム状の粉が残る。これが、成功の合図です。
豆を挽く1分が、今日の僕のバロメーター
15分のうち、豆を挽いている時間は1分くらい。でも僕にとっては、この1分が、今日の自分のバロメーターです。
穏やかにミルを回せているか。それとも、少しイライラしながら、力強く回しているか。手の動きに、その日の自分の状態がそのまま出ます。コーヒーを挽くのは、意外と力のいる作業です。僕は浅煎りが好きなので、なおさら。
そして、うまく淹れられたかどうか。
サイフォンは面白く、生き物です。抽出時間も、温度も、撹拌の丁寧さも、すべてで味が大きく変わります。雑にやれば、ちゃんと雑な味になる。今日の僕の心の状態が、そのまま一杯に出る。心のバロメーター的な存在なのが、やめられない理由なのかもしれません。
設計されたコーヒーメーカーを持っているのに
正直にお伝えすると、僕は一度、高性能コーヒーメーカーに気を浮かせました。
子どもが生まれ、毎朝のサイフォン儀式を諦めましたが、美味しい朝のコーヒーには妥協できず、買ってしまいました⋯
TWINBIRD(ツインバード) コーヒーメーカー 全自動 3杯用
燕三条の老舗メーカー「ツインバード」社が、バリスタと一緒に、抽出時の温水設定・シャワー式のドリップ・温度が上がりにくい石臼ミルなど、とても丁寧に設計され作られています。ボタンひとつで、おいしいコーヒーが出てきます。
でも、結局サイフォンに戻ってきてしまいました。
理由は、あの面倒くささです。手間がかからないことが、僕にとってはむしろ物足りない。この、儀式みたいなルーティンを毎日やること。それが、一日のリズムをつくるきっかけになっているんです。
近道は知っている。それでも、あえて遠回りを選ぶ。その道にあるものは、決して全自動やスターバックスでは味わうことのできない大切な何かがある。サイフォンは、僕にとってそういう存在です。
あなたの朝に、自分の状態を測れる時間はありますか。
それはコーヒーじゃなくても、いい。花に水をあげるでも、ベーコンの焼き加減でも、歩く速さでもいい。15分でなくてもいい。ほんの1分、自分の動きに目をやるだけで、今日の自分が少し見えてきたりします。


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